「手順書を使ってくれない」の理由と対策
「作業を標準化しよう。そうすれば、品質が安定するとともに、工数が一定になり納期見積り精度があがり、コストも下がる。」と言われる。そして、標準化とは手順書化・マニュアル化することだと思われている。
しかしながら、手順書化・マニュアル化・しても標準化できないことはよくある。それの理由は2つある。手順書が分かりにくいか、手順書を理解できないか、である。
手順書が分かりにくい場合、対処は比較的簡単である。その手順書を使って実際に教えてみる。教える方、教えられている方がスムーズに作業を進められないところを見つけ、そこを修正してスムーズに作業を進められるようにする。それだけで手順書の分かりにくさは解消する。
一方、作業者が手順書を理解できない場合には苦労を要する。なぜなら、作業者自身は手順書を「理解できる」と思っているからである。
作業者は、手順書を使えない(=理解できない)のを「手順書が分かりにくいから」と思い、エンジニアにクレームを付ける。エンジニアはそれを受け、手順書を丁寧に直す。作業者から要領を聞き取り修正する。作業者がミスしやすい部分を強調表示し、時には図や写真を付ける。そんな丁寧な手順書を、作業者は喜んで受け取るが、それを使うことはない。理由は「分かりにくいから」である。
阿部幸大の「まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書」第4章には次のように書かれている。
書けないやつは読めてもいない
つまり、(対偶)「手順書を読めるやつだけが、手順書を書ける」のである。手順書をそもそも読めない作業者からの修正依頼は役に立たない。
作業者の「手順書が分かりにくい」のコメントは、「(私には)手順書を読むための知識経験がない」のと同じである。
ではどうするか。
対策の1つは、「手順書を読ませずに作業させる」である。
なお、これが効く作業者を見分けるには、次のようにするとよい。
例えば、現場作業者にソフトウェアのインストールと初期設定をさせてみる。基本的にはインストールマニュアルに従って操作するだけである。まず間違えることはない。
ここで、この現場作業者がスムーズに作業できたかを見る。手順書を読めない作業者は「教えてもらわないとできない」「このボタンを押していいのか分からない」「ここに書いてあるが本当にそのとおりやっていいのか?」などと、マニュアルに書いてあることに疑問を持つ。
そんな作業者は、自分の経験以外は信じないので、彼らに丁寧な手順書を提供する価値はない。
そんな彼らの作業を標準化させるためには、時間はかかるがジョブローテーションが有効である。マニュアルなど作らず、別の工程に放り込む。そこでベテランに教えられ、学んでいく。
それを5回くらい繰り返すと、ようやく「違う工程でも似た作業がある。それぞれ少しずつ違っているが、これって標準化したほうがいいのでは?」と思ってくれるようになる。